2020年2月14日のバレンタインデープレゼントとして、みずほ銀行のシステム統合を特集した『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』という、タイトルからしてヤバい本が出版されました。
早速読んでみたので感想などを書いてみたいと思います。
一言でいうと、「みずほ銀行ヤバい」です。
まず、目次からしてヤバいです。
じっくりご覧ください。
はじめに
第一部 IT業界のサグラダファミリア、ついに完成す
第1章 三十五万人月、四千億円台半ば、巨大プロジェクトはこうして始まった
第2章 さらば八〇年代、新システム「MINORI」の全貌
第3章 参加ベンダー千社、驚愕のプロジェクト管理
第4章 緊張と重圧、一年がかりのシステム移行
第5章 次の課題はデジタル変革
第6章 「進退を賭けて指揮した」
みずほフィナンシャルグループ 坂井辰史社長 インタビュー
第二部 震災直後、「またか」の大規模障害
第7章 検証、混迷の十日間
第8章 重なった三十の不手際
第9章 一年をかけた再発防止策
第三部 合併直後、「まさか」の大規模障害
第10章 現場任せが諸悪の根源
第11章 無理なシステム統合計画を立案
第12章 大混乱の二〇〇二年四月
おわりに
「IT業界のサグラダファミリア」ってなんだよ。永遠に未完成の建築物かよ!
「三十五万人月、四千億円台半」ってなにその天文学的な数字は!
ピーク時には8000人が開発時に携わっていて、IT業界の約1割がみずほ銀行のシステム統合のためだけに携わっていたということ。すごすぎる!
しかも、四千億円ってピンとこない数字ですが、スカイツリー7本文の金額だそう。どれだけ高いの!?
もう、目次だけでお腹いっぱいなのですが、本の内容に入っていきましょう。
まず、忘れてはいけないのは、みずほ銀行は大規模システム障害を2002年4月と2011年3月の2回も引き起こしていることです。
システム開発に携わる人であれば、システム障害は大なり小なりの違いはあれど、経験もしているしやむを得ないものだと考えていると思います。それでは、なぜみずほ銀行では大規模なシステム障害となってしまったのでしょうか?
本書は3部構成となり、第1部でみずほ銀行のシステム統合をどのように行い成功に導いたかが書かれています。第2部では2回目のシステム障害、第3部では1回めのシステム障害について書かれています。
普通であれば、第3部、第2部、第1部の順番になりそうですが、実際に読んでみるとその意味が分かってきます。
みずほ銀行システム統合で起きたシステム障害の原因は経営レベルに問題があったのですが、それが本書の構成で読み進めていくと非常によく経営レベルに問題があったことが分かります。最初に理想のプロジェクトを見せておいて、失敗プロジェクトを眺めていくと問題がよく見えていくるという構成ですね。
みずほ銀行は2度の大規模システム障害を起こしたことにより、4000億円の費用をかけてでも命運をかけてシステム統合を行ってきたことが本書より分かります。逆に言えば、大規模システム障害がなければそれだけの決断をできなかったことでもあります。経営に問題があったと言われても仕方なかったでしょう。
しかし、2度の大規模システム障害を経験することにより、システム統合をするために何が必要か分かり、システム統合を成功させるために一切の妥協なく物事を進めてきたことも分かります。
1回目の大規模システム障害の「まさか」から、2回目の大規模システム障害の「またか」を乗り越え、無事にシステム統合を果たしたわけですね。3度めの正直といったところでしょうか。
そして、本書はみずほ銀行のシステム統合の成功と失敗について書かれていますが、本書は他のシステムを開発・運用している人々、経営者の人々に大きな教訓を与えてくれます。
みずほ銀行が20年以上もシステムを刷新しないで使ってきたことが大規模システム障害につながっていますが、これは他人事ではなく、稼働期間が20年を超えると基幹系システムは非常に危険な状態になります。
経済産業省は2025年になると、21年以上稼働している基幹系システムの比率が60%を超えるのではないかと警戒を強めていて、これを「2025年の崖」と名付けていることからも分かります。なんでも、システムの老朽化に伴う経済損失が年間12兆円にも達する恐れがあるそうです。
ですので、基幹系システムを長く使っている会社は例外なく、過去のみずほ銀行と同じリスクを抱えており、そう遠くない将来に大きな困難に直面することになります。その際、本書に書かれているみずほ銀行の取り組みは参考になります。
個人的に「ほほう」と思ったのが、みずほ銀行のシステム統合プロジェクトでは、「超高速開発ツール」なるものを全面的に導入して、人によるコーディングをなくし、コードはツールが自動生成するものに限定したことですね。開発者から不満は出たそうですが、それを抑えたことで属人性を排除し、コーディングの作業量を5分の1にしたそうです。
ちなみに開発言語は、おなじみの COBOL と Java とのことです。システムによって使い分けているようですね。
他にもプロジェクト管理をどうしたか、ユーザー教育はどうしたか、データ移行をどうしたか、品質管理をどうしたかなど参考にできる内容がたくさんありました。
個人的にはこのプロジェクトに携わった開発者の声を読みたかったですが、そういうのはなかったですね。。開発者は劣悪な環境で酷使されたというイメージが先行してしまうので、そうなのか、またはそうではないのかを知りたかったのですけどね。
IT業界のサグラダファミリアを完成させたノウハウや、2025年の崖を避ける方法を知りたい方だけでなく、ITが業界に携わる方には是非手にとって読んでほしい本ですね。
大規模システム障害を起こしたときのみずほ銀行もヤバいですし、システム統合を成功させた方法もヤバいです。ここまでやるかという内容です。
なお、Kindle 版は在庫も関係ないしオススメです。